研究概要 |
平成11年度までに、ナミアゲハの交尾中断実験を行ない、雄が体内で生産する2種類の精子の両方を雌に移送した精包内に注入していることを示した。この結果、交尾終了直後の精包には、有核精子は束として、無核精子は自由精子として存在することになる。前者の平均は42.7本であった。1本の精子束には256本の有核精子が束ねられているので、注入された自由有核精子の数は約11,000と計算される。一方無核精子の数は160,000を数えた。有核精子束は交尾終了後先端部からほどけはじめ、6時間後には精包から消失した。精包内の自由有核精子は交尾終了後3時間以降は増加しなかったので、有核精子は束がほどけた後2〜3時間精包内にとどまってから受精嚢への移動を開始したと考えられる。精包内の無核精子は交尾直後1時間より減少を始め、1日経つとほとんど精包内で見られなくなった。交尾直後から受精嚢内の精子を調査したところ、12時間後に無核精子が出現し、1日経って有核精子が到着した。したがって、雌体内では無核精子が有核精子よりも先に受精嚢へ移動を始めることがわかった。受精嚢の形態を考慮すると、この状況は無核精子が受精嚢の奥へと詰まることになるので、雌が多回交尾したときに前夫の有核精子を押し込む働きがあると考えられる。平成12年度は特に受精嚢先端部を精査し、1本のフィラメントが伸びていることを発見した。なお、雄に連続して交尾させると、注入物質(精包+付属腺物質)の量は半減するものの、両型の精子数はそれほど減らず、結果として、精子密度の高い精包が生産されいることがわかった。また、これまでに提出されている「無核精子の役割」をまとめ、ナミアゲハにおける無核精子の移動のタイミングと比較したところ、無核精子が受精嚢において押し込みを行なうとするならば、精子密度を高める戦術は適応的であるという結論に達した。
|