研究概要 |
茨城県で1971年に突発したマツ枯損がその後全県に拡がって行った過程が岸(1995)によって詳細に報告されており,これを理論的に解析するために,マツがれの移動分散を組み入れたモデルを構築し,モデルの妥当性・適用性について検討した. まず,5万の1の地図上に記載されたマツ枯れ侵入前のアカマツとクロマツの分布図を基に,50m×50mを単位の格子空間上に,それぞれの密度を記録した.こうした格子空間の上でカミキリがどのように分散するかをシミュレーションするため,カミキリの短距離移動と長距離移動に分離し,それぞれの移動距離分布を拡散モデルを用いて推定した.すなわち,短距離移動は富樫(1989)により測定されたカミキリの拡散定数を用いて,1カミキリが短距離分散の過程で感染させたマツの空間分布を求め,それをカミキリの短距離移動距離分布とした.この短距離移動分布から一個体が1年間に隣接格子に移動する確率を求めると,隣接8近傍まで移動する確率がほぼ100%であった.したがって,短距離移動をいわゆる格子モデルの枠組みで取り扱うことの妥当性が保証された.一方,長距離移動の飛翔分布は,風などによりランダムに飛び火しながら広がる過程をモデル化することにより導出した.最後に,これら2つの飛翔分布を一定の割合で組み合わせて,統合的な飛翔分布とした. 上記の統合的飛翔分布と,吉村によってモデル化されたカミキリーセンチユウーマツのローカルなダイナミクスを結合させることにより,2次元空間の中で,マツガレが広がる過程をシミュレーションした.これから,茨城県でみられた,年あたり4kmの拡大速度を説明するためには,長距離移動個体は全カミキリの少なくとも1割以上存在することが推定された.
|