研究概要 |
前年度までに,マツノマダラカミキリの近距離移動と長距離移動を取り入れた階層的拡散モデルを構築し,マツ枯れの侵入可能条件と分布域の拡大速度がカミキリの移動距離分布やマツの初期密度に依存してどのような影響を受けるか理論的解析を行った.本年度は上記モデルを茨城県で1971年に突発し,その後全県に拡がっていったマツ枯れの伝播過程(岸1995)に適用しモデルの妥当性・適用性について検討した.まず,マツ枯れ侵入前のマツ林の分布を2次元の地図上に記録し,この上でマツ枯れがどのように広がるかをシミュレーションした.また,実際に起こった分布拡大と対比させながら,近距離分散と飛び火の相対的効果について検討した.その結果, (1)カミキリの短距離分散だけでマツ枯れが広がる場合,伝播速度は年間数十メートル程度である. (2)マツ枯れの伝播速度は長距離分散するカミキリの割合に非常に敏感である.すなわち,長距離分散個体が1割程度いれば,年間数キロの伝播速度に達する.しかし,長距離移動個体の割合が十分大きいとアリー効果が働き伝播速度は0になる. (3)マツ枯れ撲滅に必要なカミキリの駆除率はマツの初期密度,長距離分散個体の割合に敏感に依存する. さらに,自然死亡したマツもカミキリの産卵対象となりうることから,上記のモデルの枠組みの中で,自然死亡がマツ枯れ拡大にどの程度寄与しうるか評価した.
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