本研究では、森林の樹冠から林床までの森林構成樹種の生理機能(本研究では光合成と気孔コンダクタンス)を測定し、環境(主として水分環境)と温帯林の機能との関係を明らかにすることを目的とした。 平成10年度は、春日山に光合成測定用足場設置の許可申請を行ったが、台風による倒木などのために、許可を得るのが極めて困難になり、奈良県吉野郡東吉野村に場所を移し高さ17mの観測塔を落葉広葉樹林内に設置した。設置場所が国定公園内にあるため、設置許可申請などに時間が掛かり、設置時期が冬になり落葉してしまったため測定できなかった。このような事情で、これまで樹冠上部から下層までの光合成速度の季節変化を測定し、それを基に解析することができていない。 観測塔の設置と並行して、春日山の林床に生育するイヌガシとイチイガシの稚樹の光合成速度、気孔コンダクタンスを測定した。その結果、林床に生育する稚樹でも、いわゆる昼寝現象が見られ、午前中と午後とでは光量子密度と光合成速度との関係が異なった。そこで、水蒸気飽差と気孔コンダクタンスとの関係を調べてみたが、これまでに報告されている結果のような明瞭な関係が見られなかった。その原因の一つとして、林床での水蒸気飽差の日変化が小さかったことが考えられるが、さらに多くのデータを蓄積して解析する必要があると考えている。さらに、林床に生育している稚樹は、サンフレックを有効に活用して光合成を行って成長していると言われているが、今年度の調査結果では、サンフレックによる光合成速度の促進よりも、バックグラウンドの光量子密度が稚樹の光合成に有効であるとの解析結果を得た。
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