環境中の化学物質については量的にごくわずかでも、大きな社会問題として取り上げられる傾向がある。他のリスクや社会的費用に照らし合わせて合理的な管理方法を確立するために人の健康に対する悪影響を環境リスクとして定量化し、規制や管理の政策決定に用いられるようになってきた。しかし生態系に対する悪影響はこのような定量的取り扱いには入っていない。 この「生態リスク」を定量化するために、動物・植物の野外集団の絶滅をエンドポイントに選び、その危険(リスク)を規準にして生態リスク槻念を基礎づけることを試みた。つまり化学物質の影響が動物・植物の絶滅の危険を増大させる効果を見積り、またそのリスクの定量化によって化学物質の管理が可能になるように考える。この目的のために、私は密度依存的で環境変動を伴う場合での絶滅時間の推定公式を導いた。 中丸麻由子博士の協力を得て、具体的な例に村して絶滅リスクを試算した.DDTを取り上げ、合衆国のロングアイランドにあるセグロカモメ集団への影響を取り上げた。確率微分方程式の公式を用いて、小集団の倍加時間、個体数の時系列変動などのデータ、生態濃縮係数やDDT暴露実験による出産率を、齢構成行列モデルにより組み合せて、さまざまな環境中DDT濃度でのセグロカモメの期待存続時間の減少を推定することに成功した。 さらに、ある化学物質による暴落量について、それと同じ効果をもたらす生息地の減少分を「リスク当量」として定義した。その結果、ロングアイランドで報告されたDDT濃度への暴露は、個体数が200羽収容できる生息地を23%減少するものに相当すると試算した。このリスク当量槻念は生態リスク評価や化学毒性管理において分かりやすく示す意味でとても有用である。また化学物質だけでなく生息地分断化、遺伝的劣化、病原体暴露の影響を、同一の規準で比較し管理することができるようになる。
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