ヒメウキクサ(Spirodela oligorrhiza)のリン酸飢餓で誘導される purple acid phosphatase(PAP)はGPIアンカータンパク質として合成されるが、細胞膜にアンカリングしているものは極めて僅かで、そのほとんどはGPI分子中の脂質部分を失った形で可溶性画分と細胞壁に存在する。本研究ではPAPの細胞壁における存在様式につい検討した。 リン酸飢餓で10日間25℃で培養した植物体を凍結乾燥して微細に粉末化したものを用い、P-nitrophenyl phosphateを基質として測定したpH8.0におけるホスファターゼの全活性は301.6nmol/10min/mg dry mass(plant)であった。この植物体粉末を1.0MNaClを含む50mM Tris-maleic bufferで抽出、洗浄したあとの画分(細胞壁)は35.1nmol/10min/mg dry mass(cell wall)のホスファターゼ活性を持っていたことから、S.Oligorrhizaの全ホスファターゼ活性の約10%は高塩濃度処理に耐性であった。一方、この細胞壁をセルラーゼとマセロザイムで処理したところ、可溶性PAPと同じ57kDaのサイズを持つPAPの可溶化がウエスタン法により確認された。細胞壁中のPAPは可溶性タンパク質として細胞壁に機械的に封じ込められているか、細胞壁成分と共有結合しているものと考えられる。
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