植物におけるGPIアンカータンパク質の生理的役割は、植物細胞が細胞壁を持つことから、動物とは大きく異なると予想される。しかし、その研究は、1996年の筆者らによるヒメウキクサSpirodela oligorrhizaのGPIアンカーホスファターゼの研究で始まったばかりである。植物で見出されたGPIアンカータンパク質の事例は現在まで10に満たないが、動物や酵母のGPIアンカータンパク質は異なる特徴がうかがわれる。本研究は、植物におけるGPIアンカータンパク質の特徴の1つである細胞壁局在性をより詳細に明らかにし、その分子機構の解明を目的に行なわれた。 3年間の研究により次のことが明らかとなった。 1)ヒメウキクサのGPIアンカーPAPのcDNAをcDNAライブラリーのスクリーニングと5′-RACEの組合せによりクローニングし、PAPの予想一次構造を決定した。ORFは455個のアミノ酸をコードし、N末端には15アミノ酸からなるシグナル配列をもっていた。C末端には約10個の疎水性アミノ酸からなるC末端シグナルと考えられる配列が認められた。また、GPIアンカー結合サイトはAla-439と予想した。 2)ヒメウキクサのGPIアンカーPAPの組織、細胞内分布を生化学的手法により調べたところ、植物体がもつホスファターゼ活性の約10%は細胞壁に結合して存在し、その一部はセルラーゼ処理により溶出されることがわかった。他方組織内のPAPの局在性を抗GPIアンカーPAPにより調べたところ、ほとんどのシグナルは皮層の最外層の細胞に認められた。 3)本研究によりコケ(ゼニゴケ)植物47kDaの分泌タンパク質がGPIアンカータンパク質であることがわかった。
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