研究概要 |
ニンジンの細胞同士が堅く結合しているカルスEmbryogeniccallus(EC)は不定胚形成能力を有するが、長期間継代培養された細胞株Non-embryogeniccallus(NC)は、ソマクローナル変異の結果、非常に細胞接着がルーズになるとともに、形態形成能力を失っている。この細胞株では、ペクチン多糖の中性糖側鎖の構造および量に大きな差のあることが見出された。しかし、NCはソマクローナル変異で生じたものなので、その原因遺伝子の探索が事実上不可能である。そこで本研究では、Nicotiana属中で最小のゲノムを持つN.plumbaginifoliaの半数体植物を材料として用い、ニンジンのNCと同様の性質を示すミュータントの作出を行うことで、細胞接着関連遺伝子の単離をめざした。 その結果、半数体N.p.の葉切片に重粒子線の照射(窒素,5Gy)を行うことにより、細胞間接着性が弱く不定芽形成能力を失ったカルスが、11.8%の葉切片に出現した。また、ハイグロマイシン耐性マーカーを有するT-DNAを導入したところ、6.7%の葉切片に同様のカルスが出現した。次に、T-DNAの導入により得られた変異カルス株nolacp-H8について、組織化学的蜆察を行った。その結果、nolacp-H8では、細胞間が分離しており、ルテニウムレッドによる染色性が非常に弱いことが観察された。 本研究において新たに得られた器官分化能力を喪失し細胞間接着が弱くなったN.p.の突然変異体を用いることにより、今後、未だ全く解明されていない高等植物の細胞接着の機能とメカニズムについて分子生物学的なアプローチからの研究が進むことが期待される。
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