本研究課題は、イネ種子の発芽制御メカニズムを分子レベルで解明することを目的としている。本年度は、下記の項目について研究を行った。 (1)組織特異的なジベレリン(GA)及びアブシジン酸(ABA)受容体の同定:フルオロレシチン標識GAおよび代謝抵抗性のABAアナログであるトリフルオロ-ABAを用いて発芽イネ種子におけるGA並びにABA受容体の同定を試みた。現在のところ有用な情報は得られていないが、11年度も引き続き本研究を継続する。(2)ABAによるショ糖合成促進機構の解析:発芽イネ種子胚盤組織およびアリューロン層並びにイネ種子胚より誘導した培養細胞において、ショ糖合成に関与する一連の酵素の活性に及ぼすABAの効果を調べたところ、アリューロン層においても胚盤組織や培養細胞と同様にABAによってスクロースシンターゼ、スクロース-ホスフエートシンターゼおよびUDP-グルコースピロホスフォリラーゼが活性化され、ショ糖合成が顕著に促進されること明らかになった。発芽イネ種子におけるショ糖合成にアリューロン層が関与するという事実は極めて重要な発見と考えられる。(3)α-アミラーゼの発現制御におけるPLC情報伝達系の関与:イノシトールリン脂質特異的ホスホリパーゼC(PLC)に対する特異抗体を用いて、発芽イネ種子におけるPLCの組織特異的発現並びにGAおよびABAによる発現調節を調べたところ、PLCは胚盤組織およびアリューロン層において発現し、また、アリューロン層においてはGAによってPLCの発現が誘導され、ABAによってその発現が遅延することがわかった。さらに、PLCに対する特異的阻害剤ネオマイシンがイネ種子の発芽および種々の組織のα-アミラーゼの発現を著しく抑制することから、イネ種子の発芽およびα-アミラーゼの発現制御にPLC情報伝達系が重要な役割を果たしていることが強く示唆された。
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