本年度は、葉緑体形質転換を使って葉緑体プロモータの構造解析を進めると同時に、葉緑体での転写制御に関わるシグマ因子、およびシグマ因子結合タンパク質の機能解析を行った。 1.psbAおよびpsbDプロモータからGFPを発現する葉緑体形質転換タバコを作製した。レポータ発現の組織特異性を解析した結果、成熟葉に特異的なpsbAプロモータの活性化に、コアプロモータ領域が関係していることが明らかになった。 2.葉緑体でGFPを発現する形質転換体で、葉緑体から伸びるチューブ状突起構造を可視化することができた。これを介して葉緑体同士が結合している様子が観察されたが、プロトプラストの融合実験から、葉緑体チューブを介した物質交換の頻度はそれほど高くないことが示された。 3.コムギSigAを大腸菌で発現させ、精製することに成功した。発達したコムギ葉緑体では、暗順応によってpsbAプロモータからの転写が見られなくなる。この葉緑体から調整したin vitro転写系に精製したSigAを添加したところ、psbA転写活性の顕著な促進が見られた。この事実は、SigAがPEPのシグマ因子として実際に機能していることを強く示唆する結果である。また、この系を利用したSigA認識プロモータの構造解析を進めている。 4.酵母のtwo-hybridシステムを利用して、SigAに特異的に結合する、新規のタンパク質(sabp)をクローニングし、シグマ結合タンパク質による転写制御の可能性について検討した。SabpはN端に葉緑体ターゲットシグナルを有していた。その発現は、葉の発達に依存しており、子葉では発現していなかった。また葉での発現は、光に依存していた。この事実は、SabpがPEPの発達依存的な転写制御に関係していることを示唆しており、その機能解析を集中的に進めている。
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