葉緑体ゲノムにコードされている光合成遺伝子はバクテリア型のRNAポリメラーゼ(PEP)によって転写される。そのため、PEP機能を制御している転写因子もバクテリアの転写因子と相同であろうと考えられた。しかしシロイヌナズナのゲノムプロジェクトの結果、葉緑体ゲノムにも核ゲノムにも、原核生物型の転写因子は全くコードされていないことが分かってきた。従って、PEPを制御する転写因子をクローニングし機能解析するには、葉緑体独自に生化学的あるいは遺伝学的アプローチを進める必要があることがわかった。そこで、まず酵母のTwo-hybridシステムを利用して葉緑体シグマ因子の機能を制御する新規タンパク質の同定に取り組み、葉緑体シグマ因子Sig1に特異的に結合するシグマ因子結合タンパク質(SibI)を葉緑体で初めて同定した。また、in vitro転写系によるプロモータ解析と、葉緑体形質転換によるin vivoプロモータ解析を組み合わせて、PEPのプロモータ認識性の変化について詳細に研究した。その結果、コムギ葉緑体では、PEPのプロモータ認識性が葉緑体分化に伴って変化し、psbAプロモータ認識において-35領域を認識するタイプから必要としないタイプへ転換することを明らかにした。さらに、-35領域を欠いているpsbDプロモータからの光応答転写に於いてシグマ因子の一つSig5が中心的役割を担っていることなどを明らかにした。また、葉緑体形質転換を使った新しい研究にも取り組み、in vivoでの-35領域の機能解析を行った。さらに、葉緑体から伸びるチューブ構造stromuleを可視化し、その生理機能について研究した。
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