光合成生物における炭素と窒素の同化反応は、共に光エネルギー転換系で生じる還元力やATPを直接あるいは間接に用いる代謝系であり、統御のとれた物質代謝を行うためには、両反応が互いに密接に関わりながらバランスが保たれることが重要である。前年度の研究では、炭素と窒素の同化反応過程の接点に位置してアンモニアとケト酸からグルタミン酸合成を司るグルタミン酸(GOGAT)の遺伝子をノックアウトしたラン藻(P.Boryanum)株を作製し、炭素、窒素の同化反応の効率やバランスを人工的に変動させることにより両方の代謝系のバランスが崩れる条件を見い出し、動的過程を制御している因子とその作用機構を解析できる実験系を構築した。本年度は、フェレドキシン(Fd)依存性とNADH依存性のGOGATの遺伝子破壊株の代謝生理実験を行い、強光で炭素ガス濃度の高い環境条件下では、Fd-GOGAT欠損株でのみ炭酸同化と窒素同化の協調性が崩れ、このアンバランスによる窒素欠乏の表現系を示すことを確立した。さらにこの影響を詳細に解析し、1)細胞内のアミノ酸プールの顕著な変動があること、2)光合成色素蛋白質等、細胞内窒素のリザーバー的な蛋白質の遺伝子の転写産物の蓄積レベルが減少すること、3)硝酸からアンモニアへの還元過程は活発に進行していること、を突き止めた。これらの結果は、アンモニア同化の中間代謝産物の量的変動が細胞内の窒素検知機構により認識され、細胞内要因による窒素欠乏への応答があることを示していると思われる。今後、シグナル分子の同定を目指した研究の展開が待たれる。また、Fd-GOGATとNADH-GOGATの組み換え酵素の作製に成功しつつあり、酵素の反応特性に基づいた代謝系の駆動の評価も具体的に進めることができる段階に到達した。
|