植物の光受容体フィトクロムには、光環境の「推移」をモニターし、生理反応を調節する機構がある。すなわちフィトクロムは、赤色光(R)と遠赤色光(FR)によって生理反応のスイッチをON-OFFするだけでなく、それらの光があたる前の光環境情報(前歴光の種類、光量そして露光時間)を隠れた因子(CRS)として蓄積し(その因子だけでは生理反応を引き起こさな)、その量に応じて活性型フィトクロムPfrによる反応を増幅する能力を持っている。 CRSはフィトクロムからの信号伝達カスケードに関わると考えられるので、CRS増減とセカンドメッセンジャーの一つである環状ヌクレオチドの消長の関係を調べている。ホウキモロコシで、光環境の変動に伴い、環状ヌクレオチドの生成と分解に関わる酵素活性の変動が認められたので、cGMPとcAMPの定量の試みを開始した。そのためには、CRSを誘導する条件を詳しく調べ、その条件に対応して定量しなければいけない。そこでR照射後どれくらいの時間でCRSがPfrによって誘導されるかを調べた。強光のRとFRをミリ秒オーダーで点滅可能なLED照射装置を製作し、0.2秒のRと5秒のFRを交互に照射しCRSを蓄積させた。その結果、0.2秒のR直後にFRを与えるとCRSの誘導は完全に打消されたが、R後10秒の暗期を挿んでFRを与えると打消しはなくCRS生成反応は完了した、このPfr反応の半期は約1秒であった、等が、この植物のアントシアニン形成を指標としたCRS定量法で明らかになった。現在、これらの条件で環状ヌクレオチド分析を試みている。また、Rに敏感なトマトの突然変異体hp-1^wとフィトクロム欠損変異体との二重突然変異体を用い、CRSの生成を測定できるか、フィトクロム分子種間で異なる信号伝達系に如何なる因子が関わっているかも調べている。
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