光化学系IIの光阻害の際には、D1蛋白質の損傷と分解が起こる。これらの過程に関与する酸素ラジカル、カチオンラジカルおよびプロテアーゼの作用機構を明らかにすることが、本実験の目的である:光化学系IIの強光照射でD1蛋白質が損傷をうけると、D1蛋白質は光化学系IIの他の蛋白質(アンテナクロロフィル結合蛋白質CP43やCytb559)と架橋反応を起こす。本研究では、この架橋産物の形成と分解について重点的に調べ、以下に述べるような結果を得た。 (1) 架橋産物は、光化学系IIの還元側阻害(好気条件)で生じる酸素ラジカルと酸化側阻害(嫌気条件)で生じるカチオンラジカルの両方の作用で、それぞれ、チラコイドのストロマ側とルーメン側で形成される。架橋産物の形成は、光強度に依存し、弱光(20 microE/m2sec)、嫌気条件で、D1蛋白質とCP43との架橋産物は効率よく形成される。 (2) 生じた架橋産物のうち、光化学系IIの還元側光阻害で生じたものは、ストロマトに存在するプロテアーゼで分解される。一方、光化学系IIの酸化側光阻害で生じた架橋産物は、光化学系II膜に存在するプロテアーゼにより、分解されることが明らかとなった。 (3) 光化学系IIの還元側で生じたD1蛋白質の架橋産物を分解するストロマプロテアーゼは、SDS-resistantで、セリンタイププロテアーゼであること、活性にATPやGTPを要求することが明らかとなった。D1蛋白質架橋産物に対するアフィニテイによりこのプロテアーゼの分離を試み、数種類の蛋白質の同定ができた。 (4) 光化学系IIの酸化側で生じたD1蛋白質の架橋産物は、膜結合性プロテアーゼで分解されることが分かった。このプロテアーゼは、メタロプロテアーゼであることが、プロテアーゼ阻害剤を用いた研究から示唆された。
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