研究概要 |
ホウレンソウ葉のネオキサンチンは9'-シス型,カボチャ実のは全トランス型であることを分光学的に確認し,両者を吸収スペクトルとHPLCの溶出時間から区別する方法を確立した.高等植物から藻類まで約110種の光合成器官,約50種の花弁や果実の非光合成器官を分析した. Chl a/bをもつ高等,シダ,コケ,緑藻,ユーグレナなどの植物の葉緑体には9'-シス型ネオキサンチンのみ存在し,全トランス型は検出できなかった.Chl a/cをもつハプト,不等毛,渦鞭毛,クリプト,原核緑色植物門の藻類,Chl aのみをもつ紅色,灰色,藍色植物門の藻類からはネオキサンチンを検出できなかった.一方,非光合成器官では9'-シス型のみ,全トランス型のみ,両者存在,存在しないの4種類があった. 従って,葉緑体に存在するネオキサンチンは総て9'-シス型で,全トランス型は存在しないことを示している.ビオラキサンチンからネオキサンチンへの合成とシス異性化が同時に酵素によりなされていると考えられる.系統発生からはChl bの存在と,9'-シス型の存在が一致したが,偶然の一致か必然性があったかは不明である. ネオキサンチンの機能は明確でない.両異性体の吸収スペクトルには差異が少ないので,光捕集や保護などの機能には差異がないと考えられる結果を山口大三室守との共同研究から得ている.ビオラキサンチンと全トランス・ネオキサンチンはビオラキサンチン・デエポキシダーゼの基質になりうるが,9'-シス型はならないことを筑波大桑原朋彦との共同研究から再確認した.一方,9'-シス・ネオキサンチンから合成されたシスABAは生理活性があると報告されている.従って,ネオキサンチンの立体異性は機能や代謝との関連が大きいことが示唆された.
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