我々は、ショウジョウバエにおいて細胞死抑制遺伝子p35を組織特異的に局所的に発現させると、成虫の正中線に異常が生ずることを見いだした。これは、正中線形成に細胞死が関与していることを示唆するものである。ショウジョウバエ成虫の正中線形成過程における細胞死の役割を解明するために、蛹期の正中線形成過程において、実際に細胞死が起こっているかどうか検証した。その結果、正中線形成部において、幼虫表皮細胞および成虫表皮細胞で細胞死が起こっていることが明らかとなった。幼虫表皮細胞はヒストブラストから増殖してきた成虫表皮細胞に左右から押されるように正中線に集まり、囲蛹殻形成後24-36時間の間に消失していた。この時、幼虫表皮細胞は、核が凝縮し、分断し、アポトーシス小体を経て死にいたることが示された。また、胸部背側正中線では、左右の翅原基の成虫細胞が融合する正中部域で、Tunel法にて染色される細胞死を起こしている細胞が観察された。 さらにp35の強制発現による正中線の異常が細胞死が抑制されたために生じたものかどうかを調査した。その結果、幼虫表皮細胞にp35を強制発現させることにより、本来の幼虫表皮細胞の細胞死が抑制されることが明らかになった。また、p35の強制発現により成虫腹部背側正中線に生ずる異常な透明クチクラ部位の下には、幼虫の表皮細胞が残っていることがわかった。これは、本来細胞死を起こすべき幼虫細胞がp35の強制発現により細胞死が抑制され、この細胞死を免れた幼虫表皮細胞が幼虫型のクチクラを形成していることを示している。今後は、この正中線形成過程において観察される細胞死が、どのような細胞死関連遺伝子により制御され、またその細胞死誘導過程にホルモンやDppなどの外部因子がどのように関わっているか明らかにしていきたい。
|