ヒゲカビの2つの接合型の間で形成される接合胞子には、両者の核が無数移動する。接合胞子中では多数の核の対合が起こると思われるが、数カ月後の発芽時まで生残できるのは僅か1・2個の2倍体核だけで、残りの核は死滅する。この現象を調べた結果、 1.5日毎に接合させることによって、全ての令の接合胞子を入手・解析できる実験系を確立し、接合胞子の形態変化を経時的に観察した結果、接合後10日目で接合胞子は物理的堅さが5倍に増大し、以後50日目から徐々に減少し、発芽直前に元に戻った。また、接合胞子中の細胞質は休眠期の進行と共に透明化し、大きな油滴が中央に形成され、発芽直前には再び不透明化し、油滴も消失した。 2.種々の令の接合胞子に顕微手術で傷をつけ、その傷口から再生した菌糸及び胞子嚢柄胞子を解析することによって、接合胞子中の核の動態を推定した結果、接合後少なくとも10日目までは接合胞子中で減数分裂は行われていなかった。10日目以後の接合胞子は菌糸を全く再生しなかった。 3.種々の遺伝的指標をもった親株の間で形成させた接合胞子の核を、再生力の強い胞子嚢柄に注入し、そこから再生してきた胞子嚢柄の胞子を解析した結果、30日目以降の接合胞子の核の中に乗換えの起こった核が数例観察され、減数分裂が示唆された。 4.種々の令の接合胞子の核をDAPI染色し、また共焦点顕微鏡で核の形態と動向を観察した結果、約10日以降の接合胞子においては核が数個づつ集合し、次第に体積を減少させていく像が観察された。発芽直前には、既に生き残った核による減数分裂とそれに続く活発な核分裂が起こり、正常な体積の核が多数観察された。 5.電子顕微鏡による接合胞子中の核の観察では、10日目以降の固定・包理が困難であったが、10日までには核の構造に目立った変化は観測されなかった。またDNAの構造変化も同様な傾向が観察された。
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