成長因子によって誘導されるマウス胚唾液腺上皮の分枝形成について、研究をおこなった。13日胚の唾液腺原基からディスパーゼ処理により上皮を単離し、単離した上皮を基底膜物質(マトリゲル)で覆い、培養液に成長因子EGFとFGF-7を添加し、上皮単独培養をおこなった。培養液にEGFのみを加えると上皮は盛んに分枝形成をおこない、FGF-7のみを加えると上皮の分枝は抑制され柄(Stalk)の伸長が観察された。両者を同時に加え、その量比を変えると、分枝パターンも変化した。このことは、正常の分枝パターンが間充織から分泌されるEGFとFGF-7の量比によって調節されている可能性を示唆している。 唾液腺上皮の分枝パターンを変化させるEGFとFGF-7の作用機構としては、上皮の細胞増殖パターンに影響を与え、その違いが原因となって分枝パターンが異なってくることが考えられる。そこで、培養上皮中のDNA合成細胞をBrdUで標識し、ホールマウント標本で免疫染色した。培地に加えた成長因子の刺激によるDNA合成は、培養開始8時間後に出現することが判明したので、8時間以降のサンプルについて細胞増殖パターンと分枝パターンとを比較した。その結果、分枝の前半の溝(Cleft)がEGF刺激によって形成される過程においては、溝の中央の陥入する部位とその周囲で細胞増殖活性に差が無いこと、また、分枝の後半の溝が深くなり柄が伸長する過程においては、小葉(Lobule)の先端部は高い細胞増殖活性を維持しているのに対して、柄の部分の細胞増殖活性は低下していることが判明した。これらの結果は、分枝形成は細胞増殖の不均一なパターンが原動力となって進行するという従来のモデルが妥当でないことを示している。
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