Tunel法を用いて、発生過程のラット胎仔の腺性下垂体原基(ラトケ嚢)が、口腔上皮から離脱する時期のアポトーシスの有無を調べた。下垂体原基が陥入し始める、胎生12日には、アポトーシス像は全く証明されなかった。原基が閉鎖する13日から細胞死像が口腔上皮との境界部に認められた。予想に反して、原基が上皮と連絡を断つ移行部よりも口腔上皮側にアポトーシスを起こしている細胞が多かった。更に、特記すべきこととしてラトケ嚢底部の閉鎖領域から、前方の口腔上皮正中部にかけて広範囲に、多数のアポトーシス像が認められた。下垂体原基が完全に閉鎖する14日以後は、口腔上皮側に少数の細胞死像が時として見られるにとどまった。 以上の観察と、今日に至るまでの腺性下垂体の器官発生に関する知見を比較して、以下の様に推論した。 1) 腺性下垂体と口腔上皮が分離する領域では、かなりの上皮性細胞がその性質を維持したまま下垂体内に取り込まれる可能性がある。これが腺性下垂体内部に残存する上皮性シスト(嚢胞)の起源であろうと推察する。 2) ラトケ嚢閉鎖部分から前方にかけて、口腔上皮正中部に観察された細胞死は、腺性下垂体の起源との関連で極めて興味深い。今後トリ、カエルのラトケ発生と比較してその意義を解明する予定である。 なお次年度は、ラット胎仔甲状腺原基に出現する細胞死像観察と平行して、腺性下垂体および口腔上皮の培養条件下の挙動を調べる予定である。
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