一個の受精卵は分裂を繰り返して多くの細胞になる。これらの細胞は増殖・分化を繰り返し、組織や器官を形成して、一個体が出来上がる。この過程において、遺伝子に内蔵されたプログラムに従い、多数の細胞がある特定の時期に死ぬ。こうして起こる細胞の死を"プログラム細胞死"または"アポトーシス"と呼ぶ。発生過程以外に、アポトーシスは生体中の細胞の増殖と除去による細胞動態の恒常性維持にも重要な役割を担っている。また、この現象の異常は癌やエイズ、アルツハイマー病などを誘起することから、アポトーシスは様々な疾病の発生を防ぐ生体防御にも深く関連するとも考えられている。近年、アポトーシス制御関連遺伝子が次々に単離・同定され、細胞死の調節機構が次第に明らかになってきた。オタマジャクシの変態時に起こる尾部の消失はアポトーシスの典型的な例として古くからよく知られているが、その分子機構については十分な解析が行われていない。自然変態のオタマジャクシを用いて我々がこれまでに行った研究から、活性酸素が尾部アポトーシスの関係するという仮説を提唱した。本研究では、TKst.XIIのオタマジャクシ(尾の短縮は始まっていない)の尾部を切断後に培養し、尾部の短縮について生化学的な検討を行った。その結果、次の2経路を経て尾部アポトーシスが生じることが示唆された。1.甲状腺ホルモンの増加→一酸化窒素濃度の増加→カタラーゼ活性阻害→過酸化水素の蓄積→リソソーム膜の脂質過酸化反応→リソソーム酵素の遊出→cysteine aspartase-3(Caspase-3)の活性化、および2.甲状腺ホルモンの増加→ミトコンドリアからシトクロムCの遊出→Caspase-3の活性化。1および2で活性化されたCaspase-3は、CAD(Caspase-activated DNase)およびICAD(inhibitorof CAD)複合体のうち、ICADを切断不活化する。自由になったCADは核内に侵入し、DNAを切断して細胞にアポトーシスを引き起こす。
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