ソテツは種子植物であるが、生殖過程で精子を形成することにおいてシダ植物と類似している。シダ植物と種子植物が生殖進化において、どのような関係にあるか興味がもたれており、ソテツで精子形成過程を調べている。針葉樹の研究から雌性配偶体からの分泌液で雄性配偶体の最終生長(休止後の生長)が誘導されるという仮説を立てたが、これをソテツで検証することが今課題研究の目的である。 精子は受精直前に液の中を泳ぐが(この液の起源を雌性配偶体と推定している)、この液が分泌されていない胚珠を用いて以下の実験を行った。(1)雌性配偶体のホモジネートを十分に生長した雄性配偶体に掛けたが、精子の放出は起こらなかった。(2)雌性配偶体のホモジネートと10%ショ糖液の1:1液を掛けたところ、10%の胚珠で精子の放出が生じ、精子が泳ぎ出した。(3)10%ショ糖液のみで同様な処理をしたところ、精子放出は起とらなかった。これらの結果は針葉樹での結果と全く一致する。雌性配偶体のホモジネートは精子放出の引き金物質を含むが、これだけでは有害で、ショ糖液で薄める必要があると解釈した。 液分泌前の雌性配偶体の形態を分泌後の形態と比較している。樹脂切片を用いた観察では、染料によく染まる顆粒状物質が分泌前の細胞に豊富であるが、分泌後の細胞ではこの物質が消失している。これは、精子が泳ぐ液(分泌液)が雌性配偶体から由来するという仮説を支持するものある。今後、透過電子顕微鏡を用いて同様の観点を微細構造から調べる。
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