本研究によって、2つのコオロギ気流感覚細胞からの同時記録による閾値正弦波刺激に対する発火時刻の揺らぎの解析と、感覚細胞に渡される機械エネルギーを気流感覚毛の長さから求め、1)コオロギの気流感覚細胞は閾値付近の刺激に対する活動電位の発射タイミングに数ミリ秒程度の揺らぎを持つこと、2)この揺らぎは細胞毎に無相関で各感覚細胞の内部雑音であること、3)この内部雑音源のエネルギーレベルは常温(300°K)における分子運動論的熱擾乱エネルギーkT(【approximately equal】4×10^<-21>Joul)付近であること、4)感覚細胞のエネルギー閾値は内部雑音よりわずか上に設定されており、もし雑音が共存しなければ検出できない微弱な刺激を雑音のエネルギーを借りて検出するStochastic resonanceの状態にあること、が明らかとなった。 しかし、中枢介在神経がこれらの熱雑音の無相関性を利用して外界の微弱信号の抽出に役立てていること、の証明は達成できなかった。原因は、中枢介在神経の入力突起部への細胞内電極の刺入の成功率が低く、閾値刺激に対する後シナプス集合電位波形の統計分散値から微弱信号に対する信号対雑音比の改善つまり情報量の増大を、十分な精度で定量化できなかったことによる。
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