昆虫視葉概日時計関連蛋白質の発現機構の解析

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10640667
• 研究機関: 山口大学
• 研究代表者: 富岡 憲治 山口大学, 理学部, 教授 (30136163)
• キーワード: 視葉 / 概日時計 / 概日リズム / 時計蛋白質 / 昆虫

研究概要

ほとんどの動物は行動を始めとして各種の生理機能に約24時間の周期性(概日リズム)を持っている。その背後にある振動機構(概日時計)は遺伝子発現を含む分子の連鎖反応系から成ると考えられている。本研究は、既に時計蛋白質候補として同定した31kDa蛋白質が、実際に時計の分子機構に含まれるものかどうかを明らかにしようとするものである。本年はまず、蛋白質合成を翻訳レベルと転写レベルで短時間阻害し、それぞれの場合に生ずる時計の位相変位と31kDa蛋白質の量的変化との比較を試みた。暗黒下で体外培養している視葉-複眼複合体に、1日のいろいろの時刻にシクロヘキシミド(CHX)の6時間パルス投与を行い、視葉遠心性ニューロン群電気活動の概日リズムの蛋白合成阻害による位相変位の時刻依存性を解析した。CHXは位相依存的に時計の位相変位を引き起こし、主観的昼の後半から夜の初めで位相の後退を、夜の後半では位相の前進を生ずることがわかった。
この位相反応曲線から時計の蛋白合成は主観的昼の後半から夜明けにかけて起こること、また、夜の後半には合成とともに分解も生じているらしいことが示唆された。さらに、この結果は31Kda蛋白質の合成が主観的昼の後半から夜にかけて起こることと一致している。一方、CHXの投与(CT12)後は位相後退に伴い31kDa蛋白質の顕著な現象が生ずることもわかった。これらの結果から、31kDa蛋白質が時計機構に関与する可能性が強く示唆された。現在、転写阻害剤であるDRBの効果を解析中である。

研究成果

• [文献書誌] Tomioka,Kenji: "Light and temperature cooperate to regulate the circadian locomotor rhythm of wild type and period mutants of Drosophila melanogaster." J.Insect Physiol.44. 587-596 (1998)
• [文献書誌] Germ,Monika: "Circadian period modulation and masking effects induced by short light pulses in locomotor rhythms of the cricket,Gryllus bimaculatus." Zool.Sci.15. 309-316 (1998)
• [文献書誌] Germ,Monika: "Effects of 5,7-DHT injection into the optic lobe on the circadian locomotor rhythm in the cricket,Gryllus bimaculatus." Zool.Sci.15. 317-322 (1998)
• [文献書誌] Tomioka Kenji: "The optic lobe: a component of the circadian timekeeping mechanism in insects." Trends Comp.Biochem.Physiol.(印刷中). (1999)
• [文献書誌] Matumoto,Akira: "timrit lengthens circadian period in a temperature dependent manner through suppression of PERIOD protein cycling and nuclear localization." Mol.Cell.Biol.(印刷中). (1999)
• [文献書誌] 富岡憲治: "特集にあたって:生物時計の重要性を考える." 遺伝. 52. 13-14 (1998)
• [文献書誌] 富岡憲治: "昆虫の視葉時計、海老原・深田編「生物時計の分子機構」(印刷中)" シュプリンガー・フェアラーク東京, (1999)
• [文献書誌] 富岡憲治: "測時機構、三橋他編「昆虫学…基礎と応用」(印刷中)" 朝倉書店, (1999)