研究概要 |
本研究の目的は視葉概日時計に関係する蛋白質の発現機構を明らかにすることにある.本年度は,まず視葉に特異的蛋白でその量が概日変動を示す31kDa蛋白質の二次元電気泳動法による精製を試みた.PVDF膜に転写し,クマシーブリリアントブルーで染色した後,スポットを切り取り,アミノ酸シーケンサーでアミノ酸配列を解析したが,N末がブロックされているらしく,解析は成功しなかった.そこで,コオロギ視葉から抽出した時計出力系に関わると推定されている色素拡散ホルモン様ペプチド(PDF)と時計蛋白質であることが知られているPERIOD蛋白質について,その発現の時間経過を新たに解析した.PDFについては,ELISAにより視葉内での日周変動か確かめられた.PERIODについては,脳抽出蛋白を電気泳動し,数種の抗PERIOD抗体を用いてウエスタンブロットを行った.その結果,抗ショウジョウバエPERIOD抗体によって標識される蛋白質が,僅かではあるが視葉で日周変動することが分かった.蛋白量は夜多く,昼少ない.これらの結果は,蛋白合成阻害剤や転写阻害剤によって推定される蛋白合成の時間帯とよく一致していた.また,この蛋白質は,抗ワモンゴキブリPERIOD抗体によっては標識されないことから,よりショウジョウバエPERIODに類似することが推察された.抗体を用いた免疫組織化学によって,視髄と視葉板との間にある少数の細胞が標識され,これらの細胞が時計細胞である可能性が強く示唆された.さらに,核が強く標識されることから,ショウジョウバエと同様に,転写の制御に関わる可能性が示唆された.
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