無脊椎動物ヒドラのグルタチオン化学受容に伴う行動応答が、高等動物由来の様々な生理活性物質(主にペプチド)で修飾されることを明らかにした。この生理活性ペプチドによる修飾が観察されるためのヒドラの飼育条件を詳しく検討し、餌に利用するアルテミアを孵化するときに利用する塩水の組成が重要であることがわかり、これに注意することによって、再現性よく観察されるようにした。 このヒドラのシステムは、グルタチオンの刺激条件を変更するだけで、様々の生理活性物質による修飾が変化し、また極微量の生理活性物質で修飾が観察されるので、微量の生物学的試料中の生理活性物質の消長を調べるのに適している。従来、この修飾はヒドラのグルタチオン応答を抑制するものが記載されていたが、今回、新たに、抑制された応答の抑制を解除する場合があることも明らかになった。実際に、このシステムを利用して、強制的に激しく運動をさせて疲労困憊状態のラットの脳脊髄液中にはTGF-beta様の活性が出現することがわかった。TGF-betaはヒドラのグルタチオン応答の抑制を解除する。 また、代表的な苦み物質であるキニーネをラットの口腔内に投与したときの脳脊髄液中のヒドラのグルタチオン応答の修飾活性の変化を調べてみると、R3応答の抑制のみが解除されることがわかった。このような作用を示すペプチドを探してみると、ジアゼパム結合蛋白(DBI)が見つかった。DBIの作用を修飾することが知られている様々な物質の効果を詳しく比較検討することによって、ラットにキニーネを嘗めさせたときには、確かに、脳脊髄液中にDBI活性が増加することがわかった。 このように、ヒドラのグルタチオン応答システムは生理活性ペプチドの研究に有用なシステムであることを実証できたが、問題がないわけではない。それは、グルタチオン応答の判定を、もっぱら観察者の判定に依存していることである。そこで、本研究では、同時に、判定をコンピュータで自動化する試みも追求した。この方面でも、必要なプログラムの開発をほぼ完了することができ、その筋道をつけることができた。
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