研究概要 |
はじめに:精子鞭毛の運動モーターであるダイニンは他の生物モーターであるミオシンやキネシンと比べて分子の大きさ、構成タンパク質の複雑性の点で極めて際立っている。ダイニン重鎖がモーター分子としての役割を担っているのが、分子中に4つのATP結合配列が存在する事も、1つのATP結合配列しか持たない他の分子モーターと区別される所以である。本研究ではウニ精子外腕ダイニン重鎖のATPase活性部位を同定することを目的にした。 結果:ダイニン重鎖は単独で発現させても不溶性タンパク質となり生理活性は測定出来なかった。in situでは重鎖は中間鎖1と複合体を形成しており、中間鎖1にはthioredoxin様活性があり、重鎖タンパク質のfoldingに寄与している可能性があったので、発現に際しては、重鎖断片と中間鎖1とのdual expressionを行い、可溶性を試みた。 1.バキュロウイルス発現系ではダイニン重鎖(〜500kDa)の全長を発現させることはできたが、発現量は少なかった。中間鎖1と一緒に発現させることでその一部が可溶化されたが、ATPase活性は検出されなかった。想定される重鎖のモーター領域(〜400kDa)は分子のC末端側2/3に相当し、dual expressionでその一部が可溶化されたが、ATPase活性は検出できなかった。発現量は依然として僅かであった。 2.4つのP-loopをカバーするM領域(〜200kDa)では発現量は顕著であったが可溶化されたのは依然として一部であった。ATPase活性は極僅かではあったが検出された。 3.4つのP-loopをN末端側からP1,P2,P3,P4と呼ぶことにする。各発現断片に一つだけP-loopを含ませるようにさせる。いずれも発現タンパク質の一部のみが可溶化されるだけであったが、ATPase活性はわずかながらP1部位を含む断片のみにあった。他のP-loop配列を含む断片では検出されなかった。 考察:軸糸ダイニンおよびその断片は単独の発現だは可溶化されなかったが、thioredxin様活性をもつ中間鎖1とのdual expressionによってその一部が可溶化できるようになった。ATPase活性は発現タンパク質が大きいと検出されない可能性があることを示唆している。 ATPase活性に関与するのは4つのうち最初の配列だけだとの結論が出された。 Dual expressionによって発現タンパク質の可溶化の度合いはある程度改善されたが、それでも極僅かであった。タンパク質濃度に比べて低いATPase活性は、タンパク質のfoldingが完全にはうまくいってない可能性があり、今後の検討課題である。
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