研究概要 |
ヘリトリゴケ科地衣類を中心とするレキデア型の子器をもつ分類群(ヘリトリゴケ類)の系統分類を進める目的で走査型電子顕微鏡を用いることにより、子器apothecia発生、特にその外縁を構成する果殻exipulumの菌糸組織の微細構造を研究した。 今年度は、単室無色の胞子で特徴づけられる広義のヘリトリゴケ属Lecideaの内、子器の果殻菌糸組織の炭質化が著しいためにその組織が暗褐色から暗紫色を呈する、Carbonea(C.vorticosa),Miriquidica(M.complanata),Paraporpidia(P.leptocarpa),Porpidia(P.trullisata)属(括弧内は研究した標本の種名で、Paraporpidiaの場合を除いて属の基準種)について各々の微細構造を追及するとともに、同様に果殻菌糸組織の炭質化が著しいためにこれらとの類縁が求められるチズゴケ属Rhizocarpon(胞子は石垣状多室、褐色:R.geographicum)を調べて比較検討した。また、果殻菌糸組織の炭質化が著しい種類と炭質化しない種類が混在するカチラリゴケ属Catillaria(広義、胞子は2室、無色:C.chalybeia)、イボゴケ属Bacidia(広義、胞子は平行多室、無色:B.rosella)も調べた。 Paraporpidia属とPorpidia属は互いに類似した菌糸組織を有するため、類縁関係が強く示唆されたが、光学顕微鏡レベルではこれらと区別のつかないCarbonea属の果殻菌糸の癒合の程度は、今回の研究では低くい事が明らかになったためParaporpidia,Porpidiaとの類縁関係はない可能性が高いことが判明した。また、上記の属と従来同じ分類群(ヘリトリゴケ科)に属するとされていたカチラリゴケ属、イボゴケ属は基準種を調べたかぎり、全く離れた属であると思われる。Miriquidica属についてはもう少し資料を蓄積したい。
|