カマアシムシ目は、多足類と共通した多くの特徴を持つ、最も原始的な昆虫群であり、昆虫類の起源・系統や体制の議論において、最も重要な一群である。このような高次系統の議論においては、比較発生学的アプローチは最も有効な方法であるが、その基礎となるカマアシムシ目の発生学的研究は、その微小さによる飼育・採卵の困難さから、現在までに手がつけられていない。 このような背景から、カマアシムシ目の発生学的研究を計画した。そして、本研究課題の申請時に、卵を得ることに成功、カマアシムシ目の発生学的研究を開始する目処が立ったかに見えた。しかしながら、これらの卵がすべて未発生か発生が正常に起こっていなかったことがその後判明し、カマアシムシ類の飼育、採卵方法の再度の検討が必要となった。 このため、より適切な飼育方法・採卵方法を見つけだすことを目的に、今までほとんど未知であった、カマアシムシ類の生活史の解明・繁殖期の同定に研究の主眼をおくことにした。そこで、多数個体が得られる長野県真田町のサイコクカマアシムシ個体群を材料として、その定期的採集による月別令期組成の解析、各月の卵巣の発達状況を準薄連続組織切片を基に検討することにした。その結果、このサイコクカマアシムシ個体群においては、3〜7月に前幼生、第1・2幼生のステージを終え、8月に亜成虫となり、そのまま越冬、翌年の夏に成虫となり、その後、卵形成を進行させながら越冬し、さらに翌年の2〜5月に産卵することが明らかになった。この結果から、現在のこの時期が産卵期にあたることが分かった。そこで、自然状態に近い土壌に多数のカマアシムシを放し飼育する方法を採用し、現在、カマアシムシ類の再度の採卵を目指している。
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