カマアシムシ目は、多足類と共通した多くの特徴を持つ、最も原子的な昆虫群であり、昆虫類の起源・系統や体制の議論において、最も重要な一群である。このような高次系統の議論においては、比較発生学的アプローチは最も有効な方法であるが、その基礎となるカマアシムシ目の発生学的研究は、その微小さによる飼育・採卵の困難さから、現在までに手がつけられていない。このような背景から、カマアシムシ目の発生学的研究を計画した。そして、本研究課題の申請時に、卵を得ることに成功、カマアシムシ目の発生学的研究を開始する目処が立ったかに見えた。しかしながら、これらの卵がすべて未発生か発生が正常に起こっていなかったことがその後判明し、カマアシムシ類の飼育、採卵方法の再度の検討が必要となった。このため、より適切な飼育方法・排卵方法を見つけだすことを目的に、今までほとんど未知であった、カマアシムシ類の生活史の解明・繁殖期の同定に研究の主眼をおくことにした。そこで、多数個体が得られる長野県真田町のサイコクカマアシムシ個体群を材料として、その定期的採集による月別令期組成の解析、各月の卵巣の発達状況を準薄連続組織切片を基に検討することにした。1世代2年、繁殖期は初春であることが明らかになり、現在、カマアシムシ類の再度の採卵を目指している。 また、昆虫類の高次系統を論じる上で、昆虫類のみならず節足動物の単系統性は前提となる。現在、大顎の構築をめぐって節足動物の単系統性の議論が盛んに行われているが、この議論を踏まえて、昆虫類の祖先型の最も近いとされるイシノミ類の大顎と小顎ならびに胸脚の間の連続相同性を明らかにすることにより、昆虫類の大顎は底節制であり、節足動物の単系統性は保証されることを論じた。また、このような厳密な形態学的議論において、無蒸着試料の低真空SEM観察が極めて有効であることも示すことができた。
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