エゾタンポポを中心とした倍数体タンポポを、9酵素14遺伝子座について電気泳動法により解析した。染色体の計数とアイソザイム分析の結果、以下の点が明らかになった。(1)エゾタンポポは、3・4・5倍体を含む50以上のマルチローカスクローンからなる。(2)これらのうち、4倍体のクローンの一部は西日本から記載された2種と同一である。(3)約40クローンからなる本州のエゾタンポポと約10クローンからなる北海道のエゾタンポポはこれまでのところクローンが異なり、両者はかなり初期に分化したものと推測される。また、葉緑体DNA(trnT-Fのスペーサー領域)のシークエンスを行った結果、東アジア産のタンポポは、葉緑体DNAの異なる2つのグループに分けられることが判明した。2倍体レベルでは(1)カンサイタンポポ等のすべての低地性日本産2倍体を含むグループと、(2)台湾のタカサゴタンポポを含むグループである。前者は828塩基、後者は863塩基とサイズが異なるだけでなく、多くの塩基配列の相違が認められた。倍数体では、エゾタンポポは(1)のグループに属し、シロバナタンポポは(2)に属す。この知見を用いてエゾタンポポ複合体の範囲を正確に特定する作業を進めた結果、エゾタンポポの1クローンと予想したナンブシロタンポポは(2)に属し、クシバタンポポ、ケンサキタンポポ、ヤマザトタンポポ、クザカイタンポポ、シコタンタンポポはエゾタンポポと同じ(1)のグループに属すことが判明した。北海道のエゾタンポポについてのデータが不十分なので、研究期間の最終年度では、再度北海道における材料の収集に努め、エゾタンポポを中心とした日本産倍数体タンポポの構造と分化の過程についてまとめる予定である。
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