センリョウ、フタリシズカ、キビヒトリシズカ、並びにヒトリシズカの日本の自然個体群における受粉生物学的研究を行った。センリョウとフタリシズカの苞は幼い花蕾を保護する機能を持つとされているが、キビヒトリシズカでは裂片が長く伸びて基部が柱頭部を覆うように広がる雄蘂群の支えとして機能するように見える。ヒトリシズカの苞は非常に小さくて、どちらの機能も持っているようには見えない。全ての種の花は雌性先熟から雌雄同熟期へと移行し、自家和合性がある。全種で、柱頭にreceptivityがあると見られる期間、雌蘂の主に上部の表面に少量の液体を点々と分泌する。子房の上部に多いが、ヒトリシズカはほぼ全面に見られる。センリョウには主に小型の甲虫類、ハナバチ類、ヒラタアブ類が訪花する。甲虫類は雌性期の花にも両性期の花にも訪れる。雌性期の花では子房表面の分泌液を探っているように見え、両性期の花では花粉も探る。どちらの花でも柱頭によく触れるので、甲虫類は他家受粉に有効な授粉者のように見える。ハナバチ類は主に両性期の花に訪れて花粉を採餌し、柱頭にもよく触れるので、雌性期に受粉していない花では、授粉者として有効であろう。ハナアブ類は花粉を採餌したり子房表面をなめたりするが、柱頭に触れることは比較的少ない。ヒトリシズカにも甲虫類、ハナバチ類、ハナアブ類が訪花する。最も多く訪れるハナバチ類とハナアブ類は雌性期と両性期の両方の花に訪れ、花序の上を動き回るので、柱頭にもよく触れる。甲虫類は比較的少ないが、授粉には有効である。フタリシズカには甲虫類、ハナアブ類、アザミウマ類、アリ類が訪花する。アザミウマ類は雄蘂群と花序軸のがつくる小さな花室に入り、花粉嚢が裂開している花では体中花粉まみれになる。キビヒトリシズカには主にアザミウマ類が訪花し、雄蘂群と花序軸がつくる花室に入り、雌雄同熟期の花では体に多量の花粉が着き、有効な授粉昆虫と思われる。どの花もほぼ完全に紫外線を吸収する。
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