雄性両性異株は、雄性と両性花株が同時に存在している交配システムであり、世界的にみても非常にまれな性型である.この性型の維持機構や進化要因に関しては様々な説がある.今までの理論的研究からは、この性型の維持には性比の偏り、高頻度の外交配や環境条件による雄株と両性株の繁殖成功度の違いが関与していると示唆されているが野外集団を用いて検証した例は非常に少ない.本研究ではモクセイ科の落葉木マルバアオダモの野外集団を用い、性型の維持に関与していると予測される要因のうち、交配様式と個体群構造(性比および生長率の性差)についての調査を行った.その結果、マルバアオダモの花粉媒介は虫媒・風媒の両方で行われていることが明らかになった.また自殖させた場合には非常に結実率が低下し、、近交弱勢の存在が示唆された.さらに訪花昆虫の訪花頻度は雄株の法が両性株より有意に高く、雄株の方が雄機能を通じての繁殖成功が非常に高いことが示唆された.アロザイム分析より算出された外交配率は0.83と高く、外交配を主体としていることが判明した.性型間の遺伝的差異をみるために算出した近交係数の値は実験を行った4遺伝子座すべてにおいて両性株が雄株より大きく、そのうち3遺伝子座においては雄株では遺伝子頻度のハーディ・ワインバーグ平衡からの有意なずれが認められなかったのと異なり、両性株では有意なずれが認められた.このことから雄株はもっぱら外交配により、雌株では自殖と外交配により生み出されていることが示唆された.個体群の性比は、サイズクラスによっても、微環境の違いによっても1:1からのずれはみられないという理論的研究とは異なる結果が観察された.また、生長率には性差はみられなかった.これらのことから、この植物における雄性両性異株性の維持には、高い外交配率、強い近交弱勢、特殊な遺伝様式が大きく関与していると考えられる。
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