研究概要 |
アカサビザトウムシGagrellula ferrugineaの核型の地理的分化のパターンと染色体交雑帯の性質や形成過程を明らかにする目的で,本年度は主として次の2つの調査をおこなった:(1)広島市近辺におけるコゲチャ型(2n=22)とクロオビ型(2n=12)の間の交雑帯の有無の確認;(2)滋賀県〜京都府南部における核型調査。それぞれの結果と研究の進行状況は次のとおり。 (1) 広島市近辺ではそれぞれコゲチャ型・クロオビ型とよばれる色斑のはっきりと異なる2地理型が分布域を接している。両者は染色体数も上に示したように著しく異なり,同所的集団も確認されているが,これまでの予備調査では斑紋や染色体に関して交雑の形跡を示唆させるようなデータも得られていた。今回,広島市近辺で詳しい分布調査と外部形態,核型の比較をおこなったが,両者の差異はかなりはっきりしており,同所的にみられる場合でも交雑の形跡は認められなかった。したがって,両者はほぼ完全に種分化を達成しているものと考えられる。歩脚の体長に対する比は,異所的集団間よりも同所的集団(呉市灰ヶ峰)間で差が拡大している形跡(形質置換)がみられた。ザトウムシでは歩脚長はその生息場所(地表から樹幹)の高さとほぼ相関する傾向があるので,両者間にはニッチシフトが生じている可能性がある。 (2) 琵琶湖以西の近畿地方では本種の染色体数は2n=16であるが,鈴鹿山地では2n=12である。これらの移行がどこでどのような形で起こるか,滋賀県〜京都府南部で詳しい核型調査を行なった。合計8集団で調査し,結果については現在分析中である。
|