研究概要 |
種分化における核型分化と外部形態の地理的分化の役割,および種分化の局面における交雑帯の意味合いを調べることを主目的として,本研究は,アカサビザトウムシGagrellula ferruginea(クモガタ綱,ザトウムシ目)とその近縁種の核型の地理的分化および染色体交雑帯の性質や形成過程を追及している。本年度は,これまで核型調査の行き届いていなかった東北地方の一部で現地調査をおこなうとともに,昨年までの調査で得られた染色体用資料の核型分析におもにとりくんだ。主な成果は次のとおり: (1)山形県山形市周辺(山形市関沢,蔵王山)にみられるアカサビザトウムシ東北型の染色体数は。青森県浅虫や奥入瀬などの集団と同じ2n=12であることを確認した。新潟県では2n=14,北関東の一部では2n=10の集団が確認されており,山形県南部から,新潟県から北関東にかけてのどこかで,数の増大および減少が生じていると示唆された。 (2)琵琶湖以西の近畿地方では本種の染色体数は2n=16であるが,鈴鹿山地では2n=12である。滋賀県〜京都府南部の合計8集団で核型調査をおこない,2n=12(滋賀県山女原)と2n=14(滋賀県栗東町金勝山,信楽町鶏鳴の滝)のほか,中間の2n=14に固定した集団(滋賀県土山町瀬ノ音)および,交雑帯中の集団と見られる染色体数が集団内多型を示す集団(2n=12/14間の交雑集団:滋賀県土山町平子峠。2n=14/16の交雑集団(滋賀県甲賀町那須ノ原山)の存在を確認した。2n=12から2n=16への移行は,野洲川と鈴鹿山地の間のかなり狭い地域で急激に起きていることが示唆された。この地域の2n=14の核型がより南方の奈良市高峰山の2n=14集団のそれと同じかどうか,現在分析中である。
|