研究概要 |
今年度は,日本・マレーシア・スリランカ・ハワイからシラガゴケ属蘚類のサンプルを入手し,そのうち数種についてはDNAを抽出した.また,DNA抽出用のサンプルの他,日本を含む太平洋諸島産のタイプ標本を含む乾燥標本を研究し,形態学的な情報に加え,これまでに得られた遺伝的情報からこの地域に産するシラガゴケ属蘚類の種分化に関する研究を行った.その結果の一つとして,小笠原諸島をタイプロカリティーとするLeucobryum boninenseが太平洋諸島に広く分布していることが初めて明らかにされた.この研究成果は1999年に米国セントルイスで開催された第16回国際植物学会議で発表した. シラガゴケ属蘚類の他,ハイゴケ目蘚類を材料として葉緑体DNAの解析を行い,形態学的にまとめられた分類群を分子系統学的に再検討した.その結果,ハイゴケ目蘚類は他系統であり,形態的にはハイゴケ属やモリクサゴケ属に含められていた一部の蘚類がカガミゴケ属と同一系統であることが明らかになった.このことはコケ植物の配偶体本レベルの形態的分類形質の相同性を見直す必要があることを示している.この成果はBryological Research(7巻8号)に公表した. また,アロザイムを用いて苔類のジャゴケとヒメジャゴケの集団解析を行った.ジャゴケについてはヨーロッパおよび日本産の集団についていくつかの同胞種が報告されているが,今回は新たに中国大陸・韓国・台湾・琉球産の集団について解析を行った.その結果,今回研究した集団はいずれも既知の同胞種に含まれるべきものであるが,集団間の遺伝的分化が進んでいることが明らかになった.それに対し,無性生殖を旺盛に行うヒメジャゴケの場合は,集団間の遺伝的分化よりも集団内の分化の方が大きいことが初めて明らかになった.これらの成果はBryological Research(7巻8号)およびHikobia(13巻1号)に公表した.
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