本年度はフタバガキ属のDipterocarpus chartaceusと、これまで研究されていないセイシェル共和国に固有なVateriopsis seychellarumの2属2種の生殖形質(特に胚発生)について研究を行った。その結果、両属では以下の10形質:(1)倒生胚珠、(2)4個の大胞子はT型の四分子を形成、(3)珠皮は2枚、(4)珠皮は基本的には多層、(5)胚嚢はタデ型(但し、反足細胞は早期に退化する)、(6)成熟した胚嚢は楕円形、(7)成熟した胚嚢中に珠心の組織が残る、(8)内乳形或は自由型、(9)胚柄は形成されるが短い、(10)双子葉の胚は左右対称、を共有することが判った。 また、これら両属間で相違がみられたのは以下の2形質であった:(1)維管束はVateriopsis seychellarumでは外珠皮でみられたが、Dipterocarpus chartaceusにおいては外珠皮でみられず、外種皮形成時にみられた(以前の報告では、Dipterocarpus属では外珠皮にも維管束がみられている。Dipterocarpus属で外珠皮に維管束がみられるか否かは、今後別の種の観察をすることによって解決されると思われる)。(2)functioning megaspore(機能的大胞子)の位置については、Vateriopsis seychellarumではカラザ側にみられたが、Dipterocarpus chartaceusではその位置は特定できなかった。 Vateria属で報告されている、いわゆるaggressive embryo sac(攻撃的胚嚢)は今回の研究に用いた両属では観察されなかった。
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