1.ハラフシグモ類は、日本および東アジア各地の自然植生のよく保存されている地域に生息する地中性の原始的なクモの1科で、クモ類の進化を研究する上でもっとも重要な一群と考えられている。本研究では、本類の資料に乏しい南西諸島および九州地方において数次にわたって現地調査を行なった。調査地では植生のよく保存されている森林において、生息環境の生態学的データをとり、多くの標本を採集した。 2.調査で得られた標本は、国立科学博物館の施設を利用して、順次、固定、解剖、測定などの作業を行ない、比較形態学的解析を行なった。同時に、比較資料として同博物館が所蔵する、国内および、東アジア各国のクモ類の未整理標本の検討を進めた。 3.集積されたデータについて内外の研究機関の研究者とも十分議論を尽くしたのち、日本動物分類学会・日本蜘蛛学会などの大会やシンポジウムの場で口頭発表するとともに、逐次、論文を作成した。 4.ベトナムにおいて採集された2新種の標本の研究を端緒に、日本、中国およびベトナム北部に生息するキムラグモ亜科の諸種を系統分類学的に5群(日本産2属および中国、ベトナム産3属)に再構築した.その結果は第14回国際クモ学会議(シカゴ市)において口頭発表するとともに、「Journal of Arachnology」誌に発表した。 5.20年前までは日本にただ1種しか知られていなかった本類を、地域や島ごとに丹念に採集調査を積み重ねることで、これまでに久米島、渡嘉敷島、石垣島などの固有の新種を含む2属16種を確認した。最終年度には計画全体を総合的に検討し、アジアのハラフシグモ類の起源や分化の様子を考察し、オーストリアで開催されたドイツ語圏国際クモ学会議で「Zur Verbreitungen der Liphistiiden (Araneae)」の標題で口頭発表した。
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