研究概要 |
本年度は主として、ヒトとアカゲザルに共通する生物学的指標(Biomarkers of Aging)の作成について研究を行った。ヒトとアカゲザルの生物的Biomarkersに基づき、両者の老化の率および特徴を見出し、寿命の大きな相違がなぜ起こるのかを探索する。アカゲザル33個体について、10年間同一個体について追跡した27の血液及び血清の生化学的検査値を基に、個人の加齢変化を縦断的に分析した。その結果、次の9変数:HGB,LYMPH,SGOT,ALK,PHOS,T-PRO,ALUB,AGR,CALC,DHEAが生物学的指標の候補的変数になることが明らかとなった。次に、122名の健康な中高年男性について7年間追跡した40の血液及び血清の生化学的検査値を基に、同様な分析を行い、アカゲザルのそれと比較したところ9変数の内、次の4変数:HGB,LYMPH,ALBU,CALCが類似した加齢変化を示すことが明らかになった。そこで、アカゲザルの4変数に、研究代表者によって既に開発された老化の主成分モデルを適用して生物学的年齢のスコアを計算するための式を求めた。 アカゲザルについて求められた生物学的年齢のスコアと暦年齢の一次回帰式はy=0.097×-1.4で、ヒトに関する一次回帰式はy=0.028x+3.05であった。両回帰式の勾配をもとに老化の率を計算すると、アカゲザルはヒトと較べ老化の進行は3.46倍速いことが明らかとなった。またヒトの場合、多くの生理的検査値は恒常性(ホメオスタシス)の維持機構の存在下にあるため加齢変化は少ないが、アカゲザルの場合、成熟後ほぼ直線的に低下する。従って、恒常性の維持機構の能力の低下が寿命の相違に関係すると考えられる。これらの研究成果は、本年7月1日に名古屋の国立長寿医療センターで開催されるJapan-USA Workshop on Nonhuman Primate Models of Aging(日本基礎老化学会の後援)で発表する。
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