研究概要 |
咬耗・磨耗・齲蝕等の影響を最小限に抑さえるため、独自に設定した歯根歯頸部の計測法を用いて、日本列島住民の歯の大きさの時代的変異を明らかにした。10,000年以上続いた縄文時代内における各期の時期的変化を、平成8-9年の一般研究(C)ですでに詳細に明らかにしている。本研究では、新潟大学・医学部、東京大学・総合研究資料館、九州大学および土井ヶ浜遺跡人類学ミュージアムに保管されている古人骨の歯冠最大径と歯根歯頸部径の大きさに関する調査を行い、弥生時代から、古墳時代、鎌倉時代を経て現代にいたる各歯の大きさとプロポーションの時代的変化について詳細な分析を行った。 歯の大きさを歯列全体的に見た場合、古墳が最大で、次いで弥生、現代、鎌倉の順に小さくなっている。時代を追ってみると、比較的大きな弥生時代から古墳時代へさらに増大し最大値を示すが、鎌倉時代へ大きく減少して最小値を示した後、やや増加するかまたは大きな変化なしに現代に至っている。このことから、一方向への単純な時代的変化を続けていくわけではなく、増減を繰り返しながら最終的には退化していることが明らかになった。歯の大きさの時代的変化を部位ごとに詳細に分析すると、近遠心径が頬舌径より退化が強く、近遠心径では歯根歯頸部より歯冠の退化が強く、下顎より上顎で退化が強く、歯によって退化の程度が異なることが明らかになった。 幅厚示数の変異は、歯の大きさの退化が近遠心径と頬舌径で共に同じ比率で進んでいくわけではなく、近遠心径と頬舌径でそれぞれに変化速度が異なっている可能性を示した。また、冠根示数の変異は、歯頸部の頑丈性が時代と共に減少していく傾向を示した。 歯の大きさの時代的変化の研究は、従来から歯列全体的な変化が注目されてきたが、本研究によって、時代的変化の速度や方向性が歯列のそれぞれの部位で異なっていることが明らかになった。
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