手で物を巧みに扱う運勲は、眼球と手の協調運動を伴う、ヒトに特徴的な運動である。本年度は、物を見て行動を起こす時の視覚性探索行動について解析した。対象物が視界に現れた時、それをはっきり見るためその像を中心視するような急速性眼球運動がおこる。この急速性眼球運動の反応時間は、刺激方法や被験者の意識の状態により変化することが知られている。そこでまず、色々な条件で、どの程度眼球運動反応時間の短縮をおこす要因を6名の被験者で検言寸した。 1: 一点を注視したまま、周辺部へ視覚刺激を呈示した時の眼球運動の反応時間は、平均228msであった. 2: 注視点を、視覚刺激呈示と同時に消灯すると201msに短縮した。 3: 注視点消灯から視覚刺激呈示までの間隔を100ms毎に延長していくと200msで最短150msまでに短縮された。以上のことは注視点の点灯状態が眼球運動発現を遅らせる要因として働いていることを示している。 4: しかしながら、固視点を消灯する代わりに、固視点の色を変えて(赤から緑)から一定間隔をおいて視標を点灯させたところ、固視点の色が変わったと同時に視標を点灯すると、統計的に有意に(p<0.01)反応時間の延長が見られた。すなわち、視標点灯時の注視点での事象の変化が反応時間を延長させる要因として作用した。 5: しかし、この間隔を200msにすることにより、固視点を同じ色で点灯したままより70msの反応時間の短縮がみられた。これは、色の変化が視標の呈示時間を予測させる信号として働き、反応時間が早くなったと考えられる。このことから、固視点の消灯は、消灯時には眼球運動の反応時間を延長させる作用があると同時に視標呈示のタイミングを予告させ、運動準備を整える作用をも備えているといえる。 6: 通常より70msも早い視覚性探索行動は、視覚刺激に対応した眼球運動特有なものか、あるいは手と眼球運動の協調運動による探索行動における手の反応時間でもみられるものかを、今後解析したい。
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