近年、InGaN量子ドットのGaN上での成長、及びそれを活性層とするレーザ構造からのレーザ発振が報告されている。本研究において我々は、量子ドットの光学特性の理解のために、InGaN量子ドットの電子構造を強結合法を用いて理論計算した。InGaN量子ドットは、(1)バリア層に囲まれていないfree-standingなドット、及び、(2)GaNバリア層で囲まれたドット、の2種類について電子構造の計算を行った。実験との比較のためには後者が重要で、ここでは、底面が(0001)面の六角柱形のIn_<0.2>Ga_<0.8>N量子ドットを想定し、これをGaNバリア層で囲み、全体も六角柱となる構造について電子構造を計算した。原子配列の計算にはKeating型のValence-Force-Field法を用い、電子構造の計算にはsp^3基底の強結合法を用いた。計算した中で、最も大きな構造は、バリア層21Åで囲まれたIn_<0.2>Ga_<0.8>N量子ドット(直径86.4Å、高さ20.8Å)であり、実験的にもこの大きさのドットを成長することが可能である。この構造に対して、ギャップ近傍の正孔準位と電子準位をそれぞれ3個まで(V1〜V3、C1〜C3)計算した。正孔側は3個共に近接した準位、電子側は基底準位(C1)と近接した励起準位(C2、C3)となっていた。また、ギャップ値はEg(C1-V1)=2.715eVと計算された。基底電子準位の電荷分布を調べたところ、波動関数はドット中にほぼ閉じ込められているが、InGaN混晶の原子配列の不規則性を反映して、電荷分布は揺らぎを持つことが明らかになった。この計算結果を用いて、光学遷移の振動子強度や励起子の結合エネルギーを計算することが可能である。
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