研究概要 |
本年度は昨年度に開発された周波数域非線形電気光学スペクトル測定システムを用いて、強誘電性液晶自己保持膜のSmC^*相における電気光学スペクトル測定を行った。偏光子および1/4波長板を用いて円偏光させたHe-Neレーザー光を自己保持膜に対して斜め45゜方向から入射し、透過光を検光子に通した後、PINフォトダイオードで受光し、得られた透過光強度信号をFFTアナライザを用いて測定した。この光学系はエリプソメトリーの配置となっているため、SmA相において膜厚の測定を行うこともできる。 測定の結果、通常のセルに入れた場合にも観測される螺旋構造の波数に対応した緩和周波数を示す緩和モードの他に、低周波において、膜厚に依存して緩和周波数が変化するモードが存在することを見い出した。この低周波モードの緩和周波数はほぼ膜厚の2乗に逆比例しており、このモードが膜表面での境界条件に依存した膜厚で決まる波数を持った、螺旋を解いたり、巻いたりするような揺らぎに対応したものであることがわかった。さらに、一定の膜厚の自己保持膜を用いて、温度による螺旋ピッチの変化に伴う緩和周波数の変化を連続的に測定することで、これらの緩和モードのダイナミックスがB.K.Urbankら(Phys.Rev.E52,3892,(1995))により理論的に予測されているものと定量的によく一致することを見い出した。 以上のように、本年度は螺旋ピッチ程度の比較的厚い強誘電性液晶自己保持膜を作成することで、螺旋軸に沿って有限なサイズの系を実現し、このような閉じ込められた系における液晶のダイナミックスを電気光学緩和スペクトロスコピーを用いて測定し、そのダイナミックスに関する新たな知見を得ることに成功した。
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