本研究の目的は、バクテリオロドプシンを改変し、任意の吸収極大波長をもつ新しい人工視物資を開発すること、これを用いて、生物の視覚システムに基づいた人工網膜の開発の可能性を探ることである。以下に研究成果の概要を述べる。 1.緑錐体としてのバクテリオロドプシン バクテリオロドプシン(wt-bR)の屈折率、吸収係数は、光強度によって変化するので、B状態とM状態のポピュレーションに関するレート方程式とLorentz-Lorenzの関係式を用いることで光強度の関数である屈折率、吸収係数を求めた。さらにこれらを用いて、単色光、2つの光を照射した場合の透過率と屈折率、吸収率変化をシミュレーションした。 2.赤錐体および緑錐体 合成した4-ケトレチナールアナログ色素の吸収極大は515nmを示したが、短波長側の光吸収が大きく、ピークが不明確だった。一方、wt-bRを低pH処理した青膜のスペクトルは、wt-bRと形状を変えずに吸収極大が600nmにシフトした。以上の結果から緑錐体にwt-bR、赤錐体に青膜を採用した。 3.青錐体の作成 アナログ法では450nm付近に吸収極大をもつ色素をほとんど作らないため、本研究ではフォボロドプシンの採用を検討した。富岡がフォボロドプシンの吸収極大波長は410nm、吸収係数はwt-bRと同じオーダーで、青錐体として最適な色素であると結論された3種の色素からなる分光感度から等色関数を計算し、国際照明委員会CIEのそれとの比較を試みたが、ヒトの吸収極大波長とすずれのため、期限内では定量的な比較まで至らなかった。定量的な色認識には、さらに光電特性などを検討する必要がある。
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