シリコンの高温における欠陥挙動を明らかにするために、二通りの方法で実験を行った。(1)赤外線加熱装置を組み込んだ急速加熱急冷装置を作製し、真空中で急速加熱融解後、急冷処理を施した試料について透過電顕法による観察、解析。(2)冷陰極電子銃を備えた電子顕微鏡内で超高温用試料ホルダーを用いた融解挙動の高分解能電顕観察及び、高温域における欠陥形成の直接観察と急冷組織観察。試料は不純物の影響を避けるため、主として含有酸素濃度の低いFZ-Siを用いたが、一般の半導体デバイス用CZ-Siについても観察を行った。結果は以下のようにまとめられる。急冷試料中には微細{111}双晶帯、extrinsic型{111}積層欠陥、積層欠陥四面体、60゜転位、格子間型転位ループ及び本性の未確認の多数の微小欠陥クラスターの形成が認められた。高分解能観察の結果では空孔の集合体の可能性を示唆する微小欠陥の存在も確認した。一方、融解のその場観察において、多くの固-液界面は{111}であり、温度変化に伴う固-液界面の前進-後退は1〜3原子層の高さを有する一対のステップの界面に沿う運動によってなされることを確認した。さらに固-液界面付近で複数の{111}面のせん断運動による{111}微細双晶の形成を初めて確認した。また中温域での電子線照射等において通常形成される{113}欠陥と同様の微小欠陥が融点近傍の固相中に形成されることを見いだした。この欠陥は格子間原子のクラスタリングによるものと考えられる。総合的に考察するとシリコンの高温域では固-液界面より格子間原子と原子空孔が形成され、さらに含有不純物も関係したそれらの離散集合過程によって複雑な欠陥形成が生ずると結論出来る。
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