研究概要 |
初期真空度10^<-9>Torr(成膜時10^<-4>Torr)の超高真空Arイオンビームスパッタ法を用いて石英基板上に室温で成膜することによりNiMn/Cu多層薄膜およびNiMn/Ni,NiMn/Cu/Ni薄膜を得た.試料組成の決定にはICP Mass Spectrometer,多層膜構造評価には原子間力顕微鏡(AFM)およびX線回折、磁気測定にはSQUID磁力計を用いた. 作成したNiMn/Cu多層膜では,シャープな界面が得られ,人工周期性がきれいに保たれていることが確認された。NiMn薄膜の組成はリエントラントスピングラス領域にあり,その1方向異方性磁場は数100Oe程度、磁化の大きさはNiの半分程度であることが分かった。すなわち,NiMn薄膜はスピンバルブ膜における強磁性層の磁化と反強磁性層が作る異方性磁場を1層で有する.この結果は,強磁性/反強磁性2層をNiMn膜1層で置き換えた新しい構造を持つスピンバルブ膜の可能性を示唆する.さらに,NiMn膜の膜厚の減少と共に磁化は減少するが,1方向異方性磁場は増大することが分かった. NiMnにNiが接合すると2層は磁気的に強く結合し,1方向異方性磁場は減少するが、Niの保磁力は増大することが分かった。またNiMn薄膜の転移温度は強磁性層との接合により上昇することが分かった。一方,NiMnとNi層間にCu層を挿入するとNiMn薄膜の異方性はCu層膜厚に依存せずほとんど一定であるが,-300Oe付近でNi層の磁化の反転が観測され,Ni層の保磁力に顕著な変化が生じた. 以上より、リエントラントNiMn膜を用いたNiMn/Cu/Ni3層からなる新しいスピンバルブ膜の可能性が示唆された。 さらに、試料に対して任意方向に磁場を印加することを可能とする試料回転機溝を持つ磁気抵抗測定用クライオスタットを作成した.今後上記試料の磁気抵抗測定を行い,スピンバルブ効果の検出を試みる.
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