研究概要 |
半導体中の希土類元素は外殻(5s,5p)に遮蔽された4f殻内の電子状態の遷移による鋭い発光スペクトルを示す。特にエルビウム(Er)の第一励起準位から基底準位への遷移による発光はシリカ系光ファイバの最低損失波長帯である1.5μm帯に相当するため、光通信用発光デバイスの実現に向けて本研究を行っている。 しかしバンドギャップの狭い半導体では温度の上昇に伴う発光強度の減少が著しいという温度消光問題のため室温発光は困難である。今年度はワイドバンドギャップ半導体である多結晶,単結晶n型,p型3C-SiCおよび6H-GaNの4種の試料にイオン注入法を用いてErを添加し、光物性の観点から発光特性を考察した。 単結晶n型,p型3C-SiCにErを加速エネルギー2MeV、ドーズ量1×10^<13>cm^<-2>、多結晶3C-SiCおよび6H-GaNに同加速エネルギー、ドーズ量3×10^<13>cm^<-2>でイオン注入法によって添加した後、注入時の損傷を除去するために熱処理を行い、それぞれの最適熱処理条件を実験より求めた。4種の基板全てからの発光スペクトルには多数のピークが存在すること、およびErの発光と母体結晶性に相関関係があることが判明した。また全ての試料から室温での発光を観測することができ、低温領域、高温領域で異なる2つの消光プロセスを確認し、温度消光活性化エネルギーを求めた。ワイドバンドギャップ半導体を母体材料に用いることで温度消光の減少割合が小さくなり、優れた温度消光特性を示すことが明らかになった。
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