本研究では、バンド端ナノ構造非晶質半導体材料として、アモルファスシリコン窒素合金膜で、窒素の組成を基板に垂直の方向にほぼ正弦波的に変調、その組成によってバンドギャップが変わることを利用して作られたバンド端変調構造膜を用いた。その結果、伝導帯の下端、価電子体の上端がともに一方向に対してほぼ正弦波で空間的に変調される膜が得られた。この膜で変調周期長が短くなるとともに、そのバンドギャップ(光学ギャップ)が大きくなることは、すでに観測され、この結果は、変調ポテンシャルを一次元調和振動子ポテンシャルで近似して求めた量子化準位の最低準位間のエネルギー間隔で説明される。 この量子化準位を更に詳しく調べるために、本研究では伝導帯または価電子帯における量子化準位間の光学遷移を赤外光域での光学吸収並びに光伝導を通じて観測することを試みた。このため赤外分光測定系を整備し、室温並びに11Kで実験を行っているが、現在までに上記の光学遷移の観測にいたっていない。 本研究で用いられている変調構造膜の欠陥状態を電子スピン共鳴で調べ、欠陥状態の量子効果について検討を行った。その結果、変調周期長21Å-100Åの範囲でg値は2.0031-2.0039の範囲にあり、その周期長依存性はみとめられなかった。この信号は、g値からバックボンドに窒素を3または2個もつシリコンダングリングボンドであって、バンドギャップの最大値、即ち窒素組成の多い領域に存在し、深い準位を形成しているために、その結果量子効果の影響を殆ど受けないと考えられる。スピン密度は周期長減少とともに、急速に増大するが、これは窒素領域の多い領域の構造の不規則性に起因していると考えられる。 変調構造膜のルミネッセンスは一重項励起子、三重項励起子、電子正孔対の再結合発光に起因し、その閉じ込め効果が励起子の安定性をもたらすことが分かった。
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