研究概要 |
平成10年度は,本方法により得られた表面電子状態の入射電子分布関数依存性及び,表面電子状態の分布関数を明らかにした.その概要は以下の項目である. 1) 入射電子の分布関数はグリッドの電位により変化し,グリッド電位(Vg)が正の場合,エネルギー分布は単一でシャープであるが,Vgが負の場合,ブロードな分布とシャープな分布が存在する.チタン基板表面酸化物の電子状態を調べた結果では,Vg>0Vで入射角θが法線方向から60度の位置に電子を強く散乱し表面トラップする状態が存在することが明らかになった. 2) 表面酸化物に電子がトラップされるプロセスは,真空中の自由電子状態から表面2次元電子状態に変化する過程を意味している.10A程度の酸化物薄膜に電子がトラップされる場合,電子波の波数ベクトルの表面に平行な成分は,表面の電子状態と共鳴的に作用する. 3) トラップされた電子の輸送過程を,電流雑音の周波数解析から明らかにした.雑音パワーは周波数の逆数に比例し,入射電子波数ベクトルに強く依存した.ホッピング伝導機構を用いて結果を解析することで,表面局在状態の空間分布関数(R∝exp(αr))を得た.Rはサイズ,rはホッピング距離(電極-局在状態間)である. 4) Vg<0Vでの透過電流の波数空間分布は,スポット或はストリーク状になっていた.散乱断面積のエネルギー依存性を考慮して,フーリエ逆変換することで表面原子配列の相関係数を得た. 5) NiO表面のガス吸着状態を解析した結果では,窒素原子がファセットとプラトー内の点欠陥に吸着している2個の状態が明らかになり,吸着構造の相転位が5x10^<-5>Torr近傍に見出された. これらの結果をドイツの研究グループと検討し,表面における入射原子の作用への摂動として基板の運動を取り入れることで,表面の原子付着状態の動的電子状態を明らかできる知見を得た.
|