研究概要 |
押し込み硬さ試験により得られる荷重ー変位曲線より,圧子押し込み過程において薄膜試料に与えられた全エネルギー,圧子引き抜き過程において薄膜試料から圧子に戻されたエネルギー,そしてこれらのエネルギーの差,すなわち薄膜試料において散逸されたエネルギーを算出する手法を確立した.この手法を用いて,組成変調した金属チタニウム/窒化チタニウム多層構造薄膜において,散逸したエネルギーの比率,すなわちエネルギー散逸率を組成変調周期に対して求め,その変化の機構を解析した.実験結果より,エネルギー散逸率が,変調周期に依存するとともに.周期が10nm程度と短い領域において,窒化チタニウムにおいて得られた値よりもさらに小さな値を示すという特異な挙動を見いだした.同様の結果を,金属バナジウム/窒化バナジウムの系においても確認した.ここで得られた結果は,薄膜が多層構造化によって弾性的になることを示す.さらに,剛性率の大きく異なる材料の組み合わせに着目し,基板/Al/TiNという構造からなる多層膜において,塑性変形に使われるエネルギーがAl層厚みに依存し,弾性変形に使われるエネルギーはAl層厚みに依存しないことを示した.以上の結果より,圧子押し込み過程におけるエネルギーの散逸に着目することにより.多層構造薄膜材料の塑性的・弾性的挙動を評価できることを示した.
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