本研究の主要な点は、両眼立体視の時間特性と奥行き運動検出器の特性の測定であり、以下のそれぞれの主な成果をあげる。まず、両眼立体視のコントラスト感度測定を運動刺激に対して測定した結果から、両眼立体視の時間特性に関して以下の事柄を明らかにした。1)両眼立体視の感度は刺激の運動速度に依存する。空間周波数によって感度の最大を示す刺激速度は異なるが、時間周波数で評価すると空間周波数によらずに5Hz付近となる。この時間周波数は、輝度変化の検出に対する感度の最大と近いことから、運動対象に対する両眼立体視の時間特性は、主に輝度変化検出にかかわるメカニズムの特性で決定されていることを示すと考えられる。2)比較する奥行きの面が逆方向に運動する刺激と同方向に運動する刺激の感度を比較すると、前者で顕著に低いことが明らかにされ、運動成分の立体視への影響も見いだされた。この相対運動による両眼立体視感度の低下は現役階で知られている両眼立体視のメカニズムの特性で説明することはできず、そのメカニズムに対して興味深い問題を提起している。次に奥行運動の実験では、そこにかかわる2つのメカニズムの特性の相違について、以下の点が明らかにされた。両眼視差の時間変化を検出するメカニズムでは、2次元の運動成分が水平方向であっても垂直方向であってもその影響は見られないが、両眼網膜像の速度差を検出するメカニズムでは、水平運動成分によって感度低下が生じる。これは、速度差のメカニズムが網膜上での2次元の運動に感度を持つ運動検出器の影響をうけることを意味する。
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